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話題作をイメージした新カクテルも…渋谷のバーで夜毎の映画談義~八月の鯨

 映画を楽しんだ後に、一杯楽しみたくなるオシャレなバーが渋谷にある。リリアン・ギッシュとベティ・デイヴィスの2大女優が共演した1987年の名作が由来のバー 「八月の鯨」(渋谷区宇田川町28−13)だ。

店の外観。階段を上ると2階店、下ると地下店がある(撮影:Avanti Press)

 メニューには、映画の題名にちなんだカクテルが80種以上並ぶ。しかし、客のほとんどはメニューを見ずに、カクテルを注文するという。その理由とは……?

バー「八月の鯨」とは?

 渋谷駅から徒歩約3分。センター街に面した2階建てのビル。その2階と地下1階がバー「八月の鯨」だ。

少年トトと映写技師アルフレッドのふたりがお出迎え(撮影:Avanti Press)

 名作『ニュー・シネマ・パラダイス』(1989)の主人公の少年トトと映写技師アルフレッドが仲良く自転車に乗るビジュアルが目印。映画のポスターとリキュールのエチケットで装飾された階段を上がると、洒脱なバーテンダーが迎えてくれた。

メニューや店の成り立ちを教えてくれた。(撮影:平辻哲也)

「八月の鯨」は、午後8時には満席になる人気店。その開店前にお邪魔した。メニューにはロシアの無声映画『戦艦ポチョムキン』(1925)を筆頭に、80種類以上のカクテルが書かれている。

ローマの休日、大脱走、アマデウス、プラダを着た悪魔…メニューを眺めるだけで映画ファンの会話が始まりそう(撮影:Avanti Press)

 「メニューは年代順に並んでいるんです。監督や俳優がかぶらないようにしています。半年に1回入れ替えて、注文がないものは消えていきます。でも、ほとんどのお客さんはメニューを見ません。映画の題名を言って、『できますか?』と言うんです。観ている映画なら、作れます」と話す。

開店のルーツ

 先代オーナーが1949年、平屋建てのバー「門」を開店したのがルーツ。89年にビルに建て替えた際に、3人の息子が3つのバーを引き継ぎ、映画好きだった三男が「八月の鯨」のオーナーに。映画にちなんだカクテルをメニューに載せて、人気になった。

アン王女に見守られるバーテンダーたち。この雰囲気がすでに映画…?(撮影:Avanti Press)

 当初は20種類ほどだったが、今では200種類以上のレシピがあり、10人のバーテンダーが働いている。バーテンダーがオススメする映画とカクテルを載せた小冊子もある。

店内で配布される小冊子(撮影:Avanti Press)

 「よく注文が出るのは、『スター・ウォーズ』シリーズ、『ハリー・ポッター』シリーズ、それからディズニー関連でしょうか。今の人気は『カメラを止めるな!』(2017)や『劇場版コード・ブルー ドクターヘリ緊急救命』(2018)です。やっぱり、公開中の映画のオーダーが多いですね」

 映画館帰りの客が映画の余韻に浸るため、やってくるのだろう。バーカウンターの向こうにいても、どんな映画がヒットしているかは手に取るように分かるという。

あの話題作のカクテルは?

 早速、話題の『カメラを止めるな!』WEB を注文。どんなカクテルが出てくるか。ゾンビ映画の撮影隊に起こる騒動を描くストーリーだけに、やはり血の色? そんな想像を巡らしていると、数分で出てきた。

『カメラを止めるな!』のカクテル(撮影:Avanti Press)

 ドイツの薬草酒「イエーガーマイスター」をベースに、カシス、「ウィルキンソン」の辛めのジンジャエール、ブルーベリーの実を砕いたものに、星型にカットされたリンゴが添えてある。苦味はあるが、すっきり。アルコール度数は35度とリキュールとしては高めだが、喉越しがよく、グイグイいける。

 「『カメラを止めるな!』は面白かったですね。作り手が映画を大好きという事が分かる作品。昔の角川映画の雰囲気を感じました。Tシャツが再販になるというので、ユーロスペースに覗きに行ったんですが、残念ながら置いていませんでした。カクテルのポイントは、星型にカットしたリンゴ。映画のラストに出てきますよね」

星型にカットされたリンゴ(撮影:平辻哲也)

 なるほど、あの星型か。映画を観た人なら、ニヤリとなること間違いなし。

2018年で外すことのできない“あの映画”のカクテルも

 もう一杯頼んだのは、今年5月のカンヌ国際映画祭で最高賞のパルムドールを受賞した是枝裕和監督の 『万引き家族』(2017)だ。こちらは想像がつかない。数分後、出てきたカクテルには、淡いブルーに黄色い花が添えてあった。レモンのリキュールをベースに、もみの木のリキュール、ブルーキュラソー、レモンとソーダを混ぜ、エディブル・フラワー(食用花)が添えられている。

『万引き家族』のカクテル(撮影:Avanti Press)

「小さい女の子に、黄色い水着を買ってあげて、海水浴に行くシーンがありますよね。それをイメージしました。もみの木のリキュールを使ったのは、住んでいる家の草木が生えている感じを出したかったんです。偽りの家族という悲しみもあったので、苦味も入れてみました」

 お見事! 新しい映画は店としてのレシピは定まらないという。「その映画を観た人間が即興で作るもので」そうで、バーテンダーが変われば、同じ映画の題名を伝えても違うものが出てくる、とか。

映画を観ることは生活の一部

 映画に合わせたカクテルを作り続けるバーテンダーは、もともと映画ファンだったのか?

映画を観るのは生活の一部だという。(撮影:平辻哲也)

「人よりも映画を観るクチだったのですが、映画好きというほどではなかったですね。観ている回数が多いのは『トップガン』(1986)、『スター・ウォーズ』シリーズ。やっぱり、映画はエンターテイメントじゃないと。好きな映画を聞かれると、スタンリー・キューブリック監督作品になります。ここで働くと、映画のオーダーは入ってくるし、会話は映画にまつわるものだらけなので、映画を観ておかないとお客さんの話についていけない。映画を観るのが生活の一部になるんですよ」

 月に劇場で5、6本、DVDや配信サービスでも同様の本数を観ているという。

 ほかのバーテンダーに好きな作品を聞くと、ジャック・タチ主演『プレイタイム』(1967)、キューブリック監督の『時計じかけのオレンジ』(1971)、『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』(1997)と返ってきた。店の営業は翌日の午前4時まで。ここでは終電がなくなった後も、毎夜、映画談義が繰り広げられている。

八月の鯨 TWITTER
住所 東京都渋谷区宇田川町28-13 渋谷門ビル B1F&2F
電話 B1F:(03)3476-7238 2F:(03)3464-8578
営業時間 18:00~4:00  不定休(Twitterを参照)



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