『マリー・アントワネット』 特集

マリー・アントワネット

マリー・アントワネットの世界

誰も知ろうとしなかった”マリー・アントワネット”

マリー・アントワネット
 本作が、これまでのマリー・アントワネットを題材にした作品と決定的に違うのは、ヴェルサイユ宮殿で贅沢三昧の生活を送る王妃が起こしたスキャンダルや事件を追うのではなく、マリーの生きた半生を、マリーの視点に立って捉えているという点だ。
わずか14歳でフランスに嫁ぎ、18歳で即位。ティーン・エイジャーの無邪気なプリンセスが突然、大国フランスの矢面に立たされる。その時マリーは何をどう感じていたのか? 決まりごとだらけの宮廷生活、自分に無関心な夫、マリーに意地悪な貴族達。さまざまなプレッシャーをはねのけるべく買い物三昧、贅沢三昧な日々にどっぷりつかっていくマリー。 そんな、マリーの心の内をソフィア・コッポラが彼女ならではの見解のもと、スクリーンに描き出し、これまで誰も知らなかった”マリー・アントワネット”を誕生させた。

本物ならではの荘厳さ。ヴェルサイユ宮殿での撮影

マリー・アントワネット
 マリー・アントワネット生誕250周年の年に撮影された記念碑的な本作はフランス政府の全面協力の下、ベルサイユ宮殿での撮影が実現したのだが、 マリーの寝室から、「鏡の間」、「平和の間」、「ヘラクレスの間」、「オランジュリー」、「プチ・トリアノン」…など、通常立ち入り禁止になっている部屋での撮影も可能となったというのだから、この作品の規模の大きさが伺える。そう、とにかくゴージャスなのだ。
 マリーとルイ16世の結婚の儀が執り行われた聖堂、不満を募らせ詰め寄る民衆にマリーが頭を下げたバルコニー。今なお語り継がれる歴史に残るシーンの数々が、実際に彼女らがそれを行った場所で撮影されている。本物ならではの荘厳さを味わえるのもこの作品のみどころのひとつだ。
 それにしても、監督のソフィア・コッポラ。前作『ロスト・イン・トランスレーション』では、当初許可が下りないと噂されたパーク・ハイアット東京で無事撮影許可をもらい大掛かりなロケを敢行し、本作ではヴェルサイユ宮殿の立ち入り禁止の部屋の鍵まで手に入れた。スケールが大きい。あっぱれである。

マカロン・カラーとポップな音楽

マリー・アントワネット
 テーブルの上に溢れるカラフルなケーキやお菓子、宮廷を彩るマカロン(フランスのお菓子)・カラーのドレスに身を包んだ貴族たち。女の子なら見ているだけで幸せな気分になってしまう、うっとりするような光景。そして、その背景に流れるのは思わずリズムを刻みたくなるポップな音楽…。
これって歴史映画なの?と疑ってしまうほど、ソフィア・コッポラの描くマリーの世界は、暗くてわびしいと感じさせるこれまでの歴史映画とは一線を画したものとなっている。
 贅の極みに住み、最高級のドレスやケーキに囲まれたマリー・アントワネットの宮廷生活を「キャンディーとケーキの世界」と称し、アンティーク・カラーではなく、モダンでフレッシュな色で描いた本作は「この映画は絶対に、誰もこれまでに体験したことのないものにしたかった」と語るソフィアの言葉通り、いまだかつてないキュートなガーリッシュ・ムービーとなっている。

目にも”おいしい”ファッション

マリー・アントワネット
 その浪費ぶりも今日に語り継がれている、18世紀最大のセレブリティ、マリー・アントワネット。 ドレスに靴にアクセサリー、欲しいものは何でも手に入れることができたマリーの超バブリーな生活を本作でも垣間見ることができるのだが、 それらのシーンを彩る彼女の身の周りの品々はすべてが「かわいい!」の一言なのだ。それもそのはず、多くの衣装が、バウ・ワウ・ワウ(※)の”アイ・ウォント・キャンディ”という曲の骨組みのもと、「食べたい」と思わせる色と素材で選ばれているという。 確かに、ワイヤーで大きく膨らんだ光沢のあるシルクのドレスは、フランスのパティスリーで見かけるアメ細工を彷彿とさせるし、あま〜い色の靴やリボンは、つまんで口に放り込みたくなる砂糖菓子のようである。本当にキュート。
 そんな誰もがうらやむ世界に住んでいたマリーだが、後にその度を越した浪費が財政を圧迫させ、非難を浴びることになってしまう。しかし、当時マリーは10代後半から20代前半の女の子。「すべてが望むがまま」というその状況にはまっていってしまったのも、仕方がないのかもしれない。

 後に母となったマリーのファッションは大きく変化し、フランス中をよりシンプルで自由でナチュラルなドレスを着る時代へと導いた。それはまるで時代が大きく変わろうとしている前兆のようだったといわれている。

※:バウ・ワウ・ワウ…1980年代のニュー・ロマンティック・ポップ・ミュージックのアーティスト。
ソフィア・コッポラは、バウ・ワウ・ワウの”アイ・ウォント・キャンディ”のような曲が、快楽を通して満足感を得ようとするマリーの衝動を、現代的な方法で表現する、ぴったりな手段であると考えた。



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